開成番長の勉強術 第5章 人生充実術〜勉強だけできたって、人生楽しくない〜

勉強における効率主義は重要だが、人生全体においては効率だけでは語れない価値がある。人とのつながり、コミュニケーション能力、そしてバランスの取れた経験——これらが総合的な人間力を形成する。本章では、勉強で培った効率性を土台にしながら、それを超えた「人間として充実した人生」を送るための考え方と実践的なスキルを解説する。点数や成績だけでない、真に豊かな人生を子どもたちに歩ませるためのヒントがここにある。
この章の目次
人とのつながりを大切に
極端な効率主義はNG
本書ではここまで効率重視の勉強法を紹介してきたが、それは「拝効率主義者」という意味ではない。中高時代は学校に遅くまで残り、大学生になってからは昼間から酒を飲むような、非効率的で馬鹿なことも散々やってきた。友人たちとの他愛もない時間を何より大切にしてきたのだ。
物事を効率的にこなせば自由な時間は増える。しかし他者との交わりにおいては、相手のノリ、場の状況、その他諸々の要素を、自分だけの一次元的視点ではなく二次元的、三次元的に考えていく必要がある。効率ばかりをわめき散らしていれば、「空気の読めない奴」「やな感じの奴」というマイナスのレッテルを貼られることになる。
理想的なのは、自分一人の時に効率主義で時間を作り出し、その時間を使いゆとりをもって他者との交わりを存分に満喫することだ。
人間関係において大切なのは効率よりも人間味
人とのつながりは何物にもかえがたい貴重なものだ。世の中に自分一人だったら、充実した人生なんて送れるはずがない。人づきあいにおいて大切な姿勢を3つ挙げる。
第一に、「相手の真剣には真剣で向き合え」。相手が真剣に困っている時は、たとえ自分のやるべきことを後回しにしてでも真剣に助ける。相手が真剣に頑張ってきたことがある時は、たとえ自分にとってあまり興味がないことでも真剣に褒める。相手が真剣に馬鹿な時は、たとえ自分のテンションが低くても真剣に馬鹿になる。人間は自分に共感してくれる人に好意を示すもので、上辺だけでなく真剣に相手の気持ちを考えることが大切だ。
第二に、「友人の突発的な誘いにはなるべくつきあえ」。心構えができていない状態で誘われて合わせるのは難しいが、そこに反応してこそ相手は喜んでくれる。むげに「無理」と断ってしまうことなく、その誘いを組み込んで自分の予定を成立させる方法を考える。気合で後から帳尻を合わせるパワーが大事だ。本当にどうしようもない時には断ればいい。普段人づきあいの良い人が断る場合、相手も「本当に忙しいんだ」と察してくれる。
第三に、「ときに効率を無視した行動が人を動かす」。世の中のことを全て効率だけで片づけようとしても人はついてこない。「効率」と対義語になっているのが「情熱」だ。効率など細かいことは考えずに、ただがむしゃらに頑張らなくてはいけない時は必ずある。この精神は開成の運動会で学んだ。打算のないひたむきな上級生の姿に、下級生たちは全力でついてくる。そこに、人を動かすことの本質がある。
人が最終的に動くのは気持ちによってだ。気持ちを動かすために一番大切なものは気持ちである。常に効率ばかりを頭で考え、感情論に対して一歩引いたところで見ているような人間は、人間的な魅力が劣っている。
自らの発言に責任を持つ
本当の意味で人から信頼されるために大切なことが2つある。第一に「口約束を守る」こと。約束を守るのは言わずもがな大切だが、尊敬する先輩に「口約束ほど堅い約束はない」と教えられたことがある。口約束はのちに証拠が残らないからこそ、信頼をベースに成り立っている。それを破ることはその人の気持ちをバッサリと裏切ることになる。口約束は絶対に守らなくてはならない。「信頼に守られた堅さ」は、法律より重いのだ。
第二に「口は堅くあること」。誰もが秘密にしておきたいことはあり、それをあなたに話してくれるとしたら、あなたのことを信頼している証拠だ。それなのに軽々しく他の場所で話のネタにしてしまうようでは裏切りもいいところ。聞いている人はその場では笑っていても、あなたのことは信頼しなくなるだろう。しっかりと責任のある言動を心がけることが大切だ。
人の気持ちを考えることのできる力
人づきあいにおいて大切なことを一言でまとめると、「人の気持ちを考えること」につきる。これができていないと、どんなに頭が優秀で効率的に物事をこなせようとも、人間的な魅力が欠落する。そしてそれはとても寂しいことだ。人を大切にすることができない人間は、無条件で失格である。
ネットとメールで世界を広げる
情報は受け取るのではなく取りに行く
2年前までパソコンを全く使えなかったが、仕事で使うようになってからは生活が一変した。今では夜の時間は決まってパソコンと向き合い、仕事や趣味の情報収集をしている。
インターネットは、酒を飲んだ状態でダラダラやっているとあっという間に膨大な時間が経過してしまうが、きちんと目的を持っていれば非常に強力なツールだ。新聞やテレビとインターネットの最も違うところは、前者がこちらが受動的に情報を受け取る媒体であるのに対し、後者は能動的に情報を取りにいけるツールであるという点だ。
検索機能を使えば好きな情報に簡単にアクセスでき、情報収集の効率は格段に向上する。自分の調べたいテーマに関する記事だけが拾い読みできるのだから、何より強力で、物事を知りたいと思う人にとって最適のツールだ。ネットを使いこなせるかどうかが、これからの社会を生き抜くにあたって重要な能力になることは間違いない。
メールは即レスする
インターネットと並んで現代人にとって欠かせないのがメールだ。仕事をするようになってから大きく変わったことがある。それは可能な限り即レスを心がけるようになったことだ。
メールは相手からしてみると、何かこちらの反応を期待して送るもの。それに対する反応が遅いと、相手は不安になり、やがてそれが募ると不信に変わる。しかもメールは処理をしないでいるとどんどん溜まっていき、溜めた結果、未返信で終わることになるのは最悪だ。メールを溜めると、相手も自分も苦しめることになる。
仕事ができる人ほどメールの返信は早い傾向にある。逆にメールの返信をサボれば、それだけで能力を低く見られる可能性がある。これはとてももったいないことだ。
ここでもパレートの法則が働く。メールの8割は2割の時間(数秒から1、2分程度の短時間)で返せる。2割くらいは返信に8割の時間(長めの時間)かかるものかもしれないが、ほとんどのメールは即レス可能なのだから、受信したらすぐさま返信するべきだ。それが円滑なコミュニケーションのコツである。
なるべく相手のスタイルに合わせてメールを送るように心がけることも大切だ。絵文字や顔文字を多く使う人に対してはこちらも同様に、堅めのメールには堅いテンションで返す。「!」に対しては「!」で返すようにすると、受け取った相手も気分がいい。メールは電話と違って文字で意思疎通をするので、その書き方のみで印象が決まってしまう。使いこなすためには細やかな気配りも大切になる。
アドリブ力とプレゼン力を鍛える
アドリブは強烈な処世術
予期せぬ事態に上手く対応してピンチを救ったり、台本どおりではない機転の利いた進め方をして場を盛り上げたりと、人生の様々な場面で役に立つのがアドリブ力だ。この能力が高い人は周囲に信頼を寄せられ、高評価であることが多い。
「臨機応変に対応する能力」と言い換えることもできるアドリブ力、ぜひ身につけたい力だが、どのようにすれば鍛えられるのか。そもそもアドリブは経験に裏打ちされたものであることをまず知っておく必要がある。経験があるからこそそれに基づいて体が反応できるので、色々な経験を積むことが大切だ。
そしてもうひとつ大切なのが、普段からアドリブを利かせた時の使いドコロを想定していることだ。例えば電車に乗っている時、「なぜだろう?
理由を3つ考えてみよう」と自分の頭で問答を設定し、頭の中で説明する。「きっと車両故障の関係でダイヤが乱れているからだ」「雨のためみんなが傘を持っているからだ」「きっと僕の車両にすごく臭い奴が乗っているからだ」——こんな感じでいい。ユーモアは基本的にとんちのようなもので、こじつけで全然構わない。ユーモラスな回答はどんどん盛り込むべきだ。笑いは人の緊張をほぐすので、生真面目くさったつまらないことばかりを言うよりもウケは良いはずだ。
これから求められるのは、あらゆる状況を自分の力で切り抜けることのできる人間だ。アドリブ力を鍛えておくことは、きっと大きな武器となるだろう。
情熱的なプレゼンで人を突き動かす
アドリブ力に加え、プレゼン力が高ければさらに魅力的だ。プレゼンとは、自分の考えを相手に伝え、共感してもらい、相手を突き動かすための演説のこと。大切なのは、最終的な目標が相手に目的の行動をさせることにあるという点だ。
上手なプレゼンのためには、まずそのものの魅力がきちんと伝わるように、分かりやすくシンプルな説明を心がけることが大切だ。ポイントのつかめない話をダラダラとしても、聞き手には内容を記憶することすらできない。
しかしプレゼンの最終目標は人を動かすことにある。話の内容はもちろん大切だが、人を動かすためにはそれ以上に重要なポイントがある。それは「情熱」だ。目を輝かせて熱く語るようなプレゼンは、得てして周りを引き込み、聞いている相手全体から情熱が溢れ出してくる。気持ちを込め、身振り手振りを駆使しながら熱く語る姿に、聞き手はどんどん惹きつけられていく。
有名な例として、Apple社のCEOスティーブ・ジョブズのプレゼンがある。YouTubeなどで検索すれば簡単に見ることができ、その魅力は十分に伝わるはずだ。
内容面と表現力を磨く
内容面では、要点をシンプルにまとめる練習をすることが大切だ。便利な方法として「3つあります」というのを紹介する。あらかじめ「要点は3つあります」と宣言することで聞き手の注意を惹きつけるとともに、3つに絞ることで自分の中でも要点を整理できる。本書の中でもこの手法を何度か使った。無理に3つにまとめる必要はないが、目安としてスッキリ整理できるので覚えておくといい。
内容面がスッキリ整理できたら、今度は表現力だ。この表現力を磨くには、名手と呼ばれる人のプレゼンを参考にするのが一番いい。意味は分からなくてもいいので、まずは恥ずかしがらずにその言葉を真似して復唱してみる。もちろん、抑揚や身振り手振りも真似して、日常会話の中に取り入れてみる。今までよりも、少し情熱的な人間になれるはずだ。
大勢の人間を前にして話すのは少し恥ずかしいかもしれないが、大切なのは場数を踏むこと。一度や二度の失敗で臆することなく練習を続ければ、やがては人を惹きつける魅力的なプレゼン力が備わるに違いない。アドリブで浮かんだ発想を情熱的なプレゼンで語ることができれば、まさに鬼に金棒だ。
ポートフォリオ人生でバランスよく人間力を鍛える
幅広く物事に精通しておくことが人間力を高める
ポートフォリオという言葉がある。これは経済用語で「リスク軽減のための分散投資」という意味だ。例えば株式と債券は基本的に値動きが逆向きになるので両方組み合わせて投資する、ドル建てと円建てで持つというように、異なる資産の金融商品を組み合わせ、ひとつで損をしてもひとつで穴埋めする分散投資方法である。
投資の世界に限らず、人生においてもこのポートフォリオの概念は大切だ。生きていればあらゆる予期せぬ出来事に出くわす。そこで対応力があればピンチをチャンスにさえし得るのに、世間知らずのため柔軟な対応ができずピンチをピンチにしてしまうこともあるだろう。
それ以前に、そもそも人生は選択の連続だから、偏った経験しかしていなければ偏った考え方しかできず、結果最善の選択肢を選べなくなってしまう。自分の世界を狭める行動しかできなくなっているとすれば、それは非常に危うい状態だ。そうならないように、バランスよく能力や知識を身につけるための「ポートフォリオ」を組んで、色々なことを経験しておく必要がある。
行動を2×2の視点で分類する
人間力を高めるために必要な要素を2つの視点から捉え、縦軸と横軸に配置して4分割で行動を分類してみる。縦軸は「集団」と「個人」、横軸は「遊び」と「勉強」だ。
第一象限は「勉強」かつ「集団」で、学校の授業や仕事が含まれる。教育や勤労が国民の義務として憲法でも定められているように、生活する上での基盤になる象限だ。誰もが半強制的に通る道のはずだが、怠った場合は物理的に生活が厳しくなる危険が高まる。
第二象限は「遊び」かつ「集団」で、クラブ活動や飲み会が含まれる。ここがしっかりしていると人間関係が円滑になり、結果、仕事もスムーズに運ぶ。何より仲間が大勢いることで人生が楽しくなる。ここを怠ると、場の空気が読めずに苦労することになるかもしれない。
第三象限は「遊び」かつ「個人」で、ショッピングや旅行が含まれる。いわゆる趣味と言われるものの多くが含まれ、自分に娯楽を与えることで明日への活力につなげることができる。この象限にはストレスをコントロールする役割があるので、充実していないと無気力状態になるなどの危険がある。
第四象限は「勉強」かつ「個人」で、読書や習い事が含まれる。ここは自分磨きの象限と言うことができ、いわゆる「引き出しの多さ」はここで培われる部分が大きい。奥深いものの考え方につながる教養を身につけるためにも、ぜひ磨いておきたい象限だ。ここが不足すると、斬新な発想が浮かばず悩むことがあるかもしれない。
自分に足りない部分を補う努力をする
各象限を見てみると、人生を充実させるためにはどれもバランスよく必要であることが分かる。例えば大学入試を突破するだけなら、第一象限だけを徹底的に鍛えれば事足りるかもしれない。しかし大学に入ってから、飲み会のひとつも楽しめないようではつまらないと思わないだろうか。
自分自身について一度分析してみて、弱い部分があるようなら、そこを補うように努めよう。人生を楽しむためには総合力を磨くことが大切なのだ。勉強も遊びもバランスよく。大切なのは、人間としての総合力である。
共感したらやってみる、そして自分のスタイルを築く
参考になることはどんどん取り入れる
第1章では主に心構えを、第2章から第4章では実践的な方法について紹介してきた。中には聞いたことがあるような内容もあったかと思うが、良い方法というのは根本でどこか共通点があるもの。それをきちんと理解し、忠実に自分の勉強法に取り入れたからこそ成功を収めることができた。
最も効率の良い勉強法は3つが大切だと考えている。「時間を意識すること」「イメージを活用すること」「反復すること」だ。そして第5章では、人生に必要な考え方およびヒューマンスキルについてお伝えした。これまでの内容も踏まえてまとめると、充実した人生を送るには次の3つが大切だと考える。「人を大切にすること」「知識・能力を蓄えること」「日々人生を楽しむこと」だ。
もちろん人それぞれなのでこれらを押しつけるつもりはない。しかし読んで「なるほど」と共感できた部分があれば、ぜひそれを今日から生活の中に取り入れて欲しい。面白そう、使えそうと思ったものはまず実行してみることだ。
反省はしても後悔はするな
やってみていきなりすんなり、最初から上手くいくとは思わない。うまくいかないなら、そのやり方にこだわらず、すぐに立ち止まって改善するようにしよう。中途半端に悩むくらいであれば、最初からやらないほうがいい。
失敗を恐れることはない。失敗は、やってみたから起こるものだし、その方法が合わなかったという発見でもある。気持ちは前と後ろ、どちらに向いているだろうか。ここが次に大きく影響するポイントだ。
気持ちが後ろに向いてしまう、つまり「やらなきゃよかった」と「後悔」してしまう人は、この失敗が全くの無駄になってしまうため、次に活かされない。こういう考えの人は、失敗を恐れて新しい物事に踏み出すその一歩も重くなる。
失敗を「うまくいかない原因を見つけ、なぜか今度はこう変えてみよう」という良い反省に変えることができれば、その失敗も次につながる財産となる。そういう考えの人は、失敗意欲も高く保てるだろう。トライ&エラーを繰り返して人は成長する。失敗は、明日の成功のための糧にすればいいのだ。
自分のスタイルを試行錯誤しながら確立する
自分のスタイルを確立すること、これが人生においてとても大切なことだ。「どうも中途半端な毎日を過ごしてしまっているなあ」と感じている人は、核となる自分のスタイルができあがっていない場合が多いのではないだろうか。「自分流の考え方」を持たず、「世間で」「一般で」よしとされる考えだけに流されているのではないだろうか。
あなたにはあなたの「あなただけの」人生がある。きちんと自分の頭で考え、自分に合ったやり方を取捨選択するのが一番に決まっている。確固たるスタイルを築き上げ、そのスタイルに自信をもって生きていければ、きっと人生は楽しいものになるはずだ。
人生に無駄なことなどない。何事にも積極的にチャレンジして、彩り豊かな毎日を過ごして欲しい。思考から行動への第一歩を踏み出そう。その積み重ねはやがて自信あるスタイルへと変わる。
まとめ
勉強における効率主義は重要だが、人生全体では人間味のある交わりこそが本質だ。人とのつながりを大切にし、ネットとメールを使いこなし、アドリブ力とプレゼン力を磨く。そしてポートフォリオの概念でバランスよく経験を積み、自分のスタイルを確立する——これらが充実した人生を送る鍵となる。失敗を恐れず、反省はしても後悔はせず、トライ&エラーを繰り返しながら成長していく姿勢が、子どもたちの人間力を高め、真に豊かな人生へと導くのだ。