開成番長の勉強術 第4章 得点獲得術〜実戦で結果を出すためのテクニック〜

勉強の本質は知識を蓄え、様々な場面に対処できる力を身につけることだが、現実には「点数」という評価が人生の多くの局面で重要な役割を果たす。入試、就職、資格試験——これらの関門を突破するには、知識だけでなく「得点力」が求められる。本章では、実際のテストで結果を出すための具体的なテクニックと心構えを解説する。失点の原因を明確にし、それぞれに対する効果的な対策を身につけることで、子どもたちが持てる力を確実に発揮できるようになる。
この章の目次
点数で結果を出す必要性
点数は人生の様々なシーンにつきまとう現実
就職活動では協調性や熱意も重視されるが、学歴が大きなウェイトを占めることは否めない。その学歴を決定するのは入学試験であり、合否を分けるのは「筆記試験の得点力」だ。点数至上主義には批判もあるが、「主観が入りにくい公平な評価」という側面も理解せざるを得ない。
塾の現場では、生徒が最も喜ぶのはテストの点が良かった時だという。「偏差値が10上がった」「期末の成績が20点上がった」——そんな報告を受けた時、生徒本人はもちろん、保護者の喜びは計り知れない。シャンパンを差し入れられるほどの感動を生むこともある。どれだけ聞こえの良い方法論でも、点数に結びつかなければ空論に過ぎない。
結果を出せば誰にも文句は言われない
身につけるべきは得点力である。結果を出すことで、生徒自身の自信が育ち、保護者の信頼が得られ、教える側もやりがいを感じる。この三者がハッピーになる循環を生み出すのが、実戦での得点獲得なのだ。
失点の原因は大きく分けて2つ
知識力不足——解くに足る力がない
失点の原因は大きく2つに分類できる。1つ目は「知識力不足」だ。ここでいう知識力とは、単に知らないということだけでなく、知識を組み合わせて考える思考力や応用力、解答をアウトプットする表現力の不足も含まれる。分かりやすく言えば、「その問題を解くに足る力がないから間違える」状態だ。
知識力不足による失点は、本人も「勉強不足だった」と痛感しやすい。自覚と反省を促すのは比較的容易で、対策の方向性も明確だ。
注意力不足——本来できるはずなのにできない
2つ目の原因は「注意力不足」、いわゆる「うっかりミス」「ケアレスミス」だ。本来できるはずの問題なのにできない——この失点は自覚症状なく訪れ、答え合わせをして初めて「えっ?」となる。
計算ミスや設問の読み間違いはまだ序の口で、答案に名前を書き忘れる、マークシートで1列ずらしてマークするといった極端な例もある。厄介なのは、この失点が軽く考えられがちなことだ。「うっかりやっちまったけど、本来ならできていたはずだ」と、失点した事実を自分の実力と認めたがらない傾向がある。しかしそれではいつまで経ってもミス癖は直らない。
知識力と注意力は、スキーのジャンプにおける飛距離点と飛型点のようなもの。両方が備わって初めて高得点を獲得できるのだ。
知識力不足の解決策
メモリーサイクルに従った反復復習
勉強した内容を定着させる方法は、繰り返しやり直すしかない。成績の伸びる子とそうでない子の差は、分からない問題や間違えた問題のつぶし方にあることが多い。
3つのパターンで考えてみよう。A君は授業を真面目に受け、理解して帰るが復習をしない。結果、テストで点数が取れない。Bさんは授業後その日のうちに復習するが、それなりの成績で伸び悩んでいる。C君は授業後に復習し、さらに一週間後の次回授業前日に怪しかった問題を再度復習している。テストでは毎回上位だ。
反復復習「プクプク法」の威力
3人の差は明白だ。授業を聞いて分かるのは当然で、大事なのは「一度習った後」にある。A君はせっかく理解したのに復習せず、知識が入っては抜けを繰り返している。エビングハウスの忘却曲線が示すように、人間は一日で70%以上忘れてしまう。
BさんとC君の決定的な違いは、2回目の復習を入れているか否かだ。当日の復習は重要だが、タイミングが近すぎて本来危うい問題を見逃してしまう弱点がある。C君は約1週間後に2度目の復習を入れることで、忘れかけた問題を思い出し、記憶を強固にしている。サイヤ人理論にあるように、思い出すと同時に記憶が強化されるのだ。
この反復復習には「反復の復」と「復習の復」をとって「プクプク(復復)法」という名前がつけられている。メモリーサイクルに従って計画的に行うことで、勉強時間を無駄にせず効率的に知識を定着させることができる。
注意力不足の解決策
実力以上の力が発揮できるなんてことはない
普段の学習で知識と対応力を身につけても、それを点数として発揮する場はテストだ。「実力以上の力が発揮できた」という言葉があるが、これは知っている以上の問題を解けたという意味ではない。いつもの試験で自分の実力を正しく発揮できていないことの裏返しなのだ。
点数が伸びない人は、答案が返ってくるたびに「なんでこんな間違いをしたんだろう」という問題を発見する。注意力不足による失点だ。普段ボロボロと点数を落としているため、たまたまそれがないと実力以上の力を発揮できた気になってしまう。大いなる勘違いである。
直後見直しの「チョクチョク法」
うっかりミスを大幅に減らす魔法がある。それが直後見直しの「チョクチョク(直直)法」だ。問題を解き終わるとは、解答欄に解答を記入した瞬間ではない。そこであとひと踏ん張り、見直しという最後の仕上げをしないと取れるはずの得点を失う。
ポイントは、見直しを「問題を解いたまさにその直後のタイミング」でやることだ。試験を全部解き終わってからの見直しではなく、1問解くたびに見直す。理由は3つある。
第一に、集中力を持続した状態での見直しが可能になる。問題内容が完全に頭に入っているホットな状態で、間違いが発生しそうなポイントを短時間でザッと見渡せる。第二に、見直しができなくなる危険性を排除できる。最後まで行ってから見直そうとすると、意外と時間が確保できないものだ。第三に、解き進めていく中での安心感を獲得できる。「ここまではできている」と自信を持てるため、いらぬプレッシャーを感じずに進められる。
チョクチョクと最終見直しの併用
かける時間の目安は、5分で解いた問題で30秒程度。解いた時間の10分の1程度でザッとチョクチョクを入れる習慣をつけると、ミスは格段に減る。
理想は、チョクチョクと「最終見直し」の両方をすることだ。チョクチョクは効率が良いが、根本的な条件の勘違いには気づきにくい弱点がある。頭をリセットした状態での最終見直しは、思い込みを排除し冷静に根本的なミスを発見しやすい。経験上、チョクチョクで単純ミスの8割は発見できる。残り2割は時間をかけないと発見できないミスだ。時間対効果が非常に高い見直し方法として、ぜひ活用したい。
問題文は長い時間かけて読む習慣
大前提の読み間違いは致命的なミス
ミスのタイミングには、問題文を読むとき、問題を解くとき、解答を書くときの3つがある。チョクチョクで発見できるのは基本的に後者2つで、問題文の読み間違いによるミスは一番やっかいだ。よっぽど変な答えにならない限り、なかなか気づけない。
このミスは気づいた時の精神的ダメージも大きい。問題の大前提が覆されるため、そこまでかけた時間への徒労感とともに、大変な焦りが生じる。最初の数十秒から数分程度の準備を疎かにしたせいで、その後数分から数十分かけて解いた時間が無駄になる可能性——大変馬鹿げている。それを避けるためだけでも、問題文をじっくりと読む価値はある。
問題文には全てのヒントが詰まっている
しかし問題文をじっくり読むことには、それ以上の価値がある。実際、タイムアタック的な要素のない普通の試験では、他の人の3倍くらいの時間をかけて問題文を読むことも珍しくない。
全ての設問のヒントは問題文の中に隠されており、深く理解すればするほど解答作業が正確でスムーズになる。成績のいい生徒ほど問題文に時間をかけ、その後をスムーズに進める。逆に成績の良くない生徒ほど問題文を読み飛ばし、ダラダラと解答作業に時間をかける傾向がある。結果的には、じっくり問題を読んだ生徒のほうが先に正解し次の問題に移るのだ。
「解説を読んだら理解できるのだけど、自力で解けない」という悩みを持つ場合、プクプクで地力を上げることも大切だが、もう少し問題文をじっくり読み、条件や聞かれていることを咀嚼してから解答にかかると良い効果が期待できる。チョクチョクと組み合わせれば、たいていのミスを防ぐことができる。
全ての教科は暗記物である
数学や国語も暗記物の一種
理科や社会は暗記物、数学や国語は思考力系——そんな分類がよくなされる。確かに理社には覚えるべきことが多く、数国は仕組みや法則を用いて問題に解答していく。しかし実際のところ、数国も暗記物だと考えられる。
少し基本を習っただけで応用問題をスラスラ解く人は稀だ。勉強ができる人の大半は、問題のパターンを暗記してしまうほどに色々な問題を解き込んでいる。理社と数国では、暗記する対象が細かい知識か、解答へつながる一連の過程かという違いがあるだけなのだ。
集中して解き込むことで一線を越える
暗記物である以上、センスはあまり関係ない。センスそのものも、パターンを暗記する(覚え込む)ことで磨かれる。
小学6年の夏、国語の偏差値が50付近をウロウロしていた時期があった。算数・理科・社会はいずれも偏差値70超えなのに、国語だけが苦手だった。夏期講習に加えて一冊の国語問題集が課され、辛かったが毎日コツコツやり遂げた結果、夏を越えた頃には読解力と記述力が見違えるように上がっていた。
大学受験時も同様だった。浪人時代の最後3ヶ月、国語の過去問や実戦問題集を繰り返し学習した。すると本番2週間前という超ギリギリの時期に、急に模範解答に近い答案が書けるようになった。ある日突然、生まれ変わったかのごとく得点が跳ね上がったのだ。
これは「コツ」を掴んだということだが、問題を解き込んだことで採点者が求める答案の書き方が体に染みついたとも言える。この「体に染みついた」という現象は、広義で暗記の一種だ。暗記物の要領で繰り返し学習すれば、思考力系と言われる教科にも十分対応可能なのだ。
センスがないと諦める必要はない。解き込んで出題パターンを暗記することで、センスは磨かれる。「継続は力なり」という言葉を胸に、目標に向けて取り組むことが大切だ。
間違えた問題は貴重な財産
間違いは自分の足りない部分を知らせてくれる警報
問題を解いて正解したら嬉しい、間違えたら悔しい——当然の感情だ。しかし本番以外の時には、間違えても喜ぶことを推奨したい。勉強は新しいことを自分の知識として身につけるためにおこなっている。最初から全問正解できる問題を解いて満足しても、何も進歩はない。
問題を解いて間違えた時には、「危ない、今間違えなかったら、わからないまま放置してしまうところだった」と前向きに考えることが大切だ。人間は体の一部に異常が起こっている時に痛みを感じる。痛みは警報の役割を果たしている。同様に、間違えることは自分にその知識が身についていないことを知らせてくれる警報なのだ。
間違いレベルを明快にする「〆チェック法」
痛みを感じれば病院に行って治療する。間違いも同様だ。自分の弱点をどう処理し克服していくかが、得点力アップのポイントになる。
具体的な方法として推奨されているのが、「〆(シメバツ)チェック法」だ。まず一度目に解いた時、間違えた問題に/をつける。大切なのは、問題のほうに/をつけることだ。ノートではなく問題にバツをつけることで、復習時に間違えた問題がパッと分かる。
そしてメモリーサイクルに従ったプクプクで復習していく。やり直しで正解できた場合は、/に逆向きの/を重ねて〆を完成させる。これが自力で解けた証だ。再度間違えた場合は/を追加して//にし、繰り返し間違えればその分だけ/が積み重なる。最終的に解けた時に初めて/が入る。
この方法でプクプクをやると、どれが苦手かが一目瞭然になる。/が積み重なってゴツイ記号になっているものは、たとえ〆で締めてあっても要注意問題と分かり、復習時に注意を払いやすい。練習のときはどれだけ点数が低くても構わない。勉強の意義は、分からなかったものをできるようにすることなのだから。
間違いの積み重ねを、自分の能力を高みに運んでくれる階段だと思おう。それらを一歩一歩着実に踏みしめて登ることが、最終的に高得点を獲得するための秘訣なのだ。
まとめ
得点力の向上には、失点の原因を正しく認識することが不可欠だ。知識力不足にはメモリーサイクルに従った反復復習「プクプク法」で、注意力不足には直後見直しの「チョクチョク法」で対処する。問題文をじっくり読む習慣、全教科を暗記物として捉える発想、そして間違いを財産と考える姿勢——これらを実践することで、子どもたちは持てる力を確実に発揮できるようになる。点数という結果が、本人・保護者・教える側全員の喜びにつながる好循環を生み出すのだ。