開成番長の勉強術 第3章 超絶暗記術〜知識を確実に脳内に残す方法〜

この章では、記憶のメカニズムを科学的に理解した上で、誰でも実践できる具体的な記憶法が紹介される。「スクリーン法」と「メモリーサイクル法」という2つの核となる「コツ」を軸に、語呂合わせ、折れ線グラフ式、人名記憶法など、多様な場面で応用可能なテクニックが展開される。保護者にとっては、子どもが「覚えられない」と悩んだときに、単なる努力不足ではなく方法論の問題として捉え直すヒントが得られる内容だ。
この章の目次
一般論の中に隠されたヒント
「記憶力が良ければもっと楽に勉強できるのに」——この悩みを持つ人は多い。世の中には記憶に関する様々な研究があり、多様な記憶法が出回っているが、それゆえに「どれを信じれば良いのか分からない」と困るのが現実だ。
様々な記憶法には共通点が見出せる
著者は定期試験前の一夜漬けや、塾の時間割を何も見ずに伝えられるなど、記憶力を大いに役立ててきた。しかし記憶力アップの方法を体系的に勉強したことはなかった。本書執筆にあたり一般的な方法を調べたところ、自分が知らず知らずのうちに使っていた方法は、効果的とされる方法と通ずる部分が結構多いことが分かった。そこから一つの確信を得た。記憶はコツさえつかめば誰でも得意にできるに違いない。
効率良い記憶のための大原則を理解する
記憶法は「これっ!」というカチッと決まった型よりも、ある程度自分仕様に改造したやり方のほうが使いやすい。つまり万人にベストな方法はないと言ってもいい。しかし効率の良い記憶のための大原則はある。著者が愛用している記憶法には確かに「ある共通点」が存在しており、それが記憶の「コツ」なのだ。本章では著者が使ってきた記憶法を紹介する中で、読者が1つでも2つでも自分の中でヒットする方法を見つけ、「コツ」の大切さに気づき、自分流にアレンジしてオリジナルな記憶スタイルを確立することが目的である。
スクリーン法で鮮烈インプット
記憶の「コツ」の1つ目として紹介されるのが「スクリーン法」だ。これは「イメージ」と「リズム」という2つの要素を活用した記憶法である。
イメージ力は考える際に必ず使うもの
人間は、実在しないものであろうと遠く離れた所のものであろうと、あたかも目の前に在るかのごとく想像する力——「イメージ力」を備えている。この能力は日常的に使いまくっている特別なものではなく、考える上で絶対に使っている力だ。「りゅう」という言葉を聞いたとき、緑色の巨大な生物を想像したり、「竜」「龍」という漢字を思い浮かべたり、「流」をイメージして水の流れが目に浮かんだりする。何かを考える作業、思い出す作業には、必ずこの「イメージ力」が使われる。逆に言うと、これらは人の脳に全て「イメージ」として記憶されているのだ。
記憶補助の最強ツール、自然と口をつく「音」「リズム」
SMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞を思い出すとき、普通はあの軽快なメロディーと一緒に歌詞が浮かぶはず。小学校の時に歌った曲の歌詞も、音に乗って次から次へと出てくる。「スイキンチカモクドッテンカイメイ」や「水平リーベ僕の船七曲がりシップスクラークか」といったリズムに乗せたフレーズは、一度聞いたことがあれば忘れることはない。音やリズムに乗せたフレーズは深く記憶に残りやすく、芋づる式にズルズルと記憶を引き出すのにも非常に有効な手段と言える。
スクリーン法で頭の中に映画を作り上げる
「イメージ」と「リズム」が記憶において重要な要素であることが、記憶の「コツ」の1つ目だ。著者はこれを映画になぞらえて「スクリーン法」と呼んでいる。何かを覚えようと思ったら、まずそれを頭の中にイメージすること。あるものを思い出すときには必ず何らかのイメージとして頭の中によみがえるのだから、初めからイメージを作って脳内に入れるよう常に意識しておけば、一連の過程がスムーズになる。具体的な映像・姿・形として想像できない場合は、文字のままイメージを焼きつけても構わない。漢字や仮名を読みながら、その字づらを頭の中にしっかりと描き、その単語を頭の中で復唱する。この作業を入れるだけでかなり定着率は違ってくる。
語呂合わせとプチ映画
覚えるものが複数の見慣れない単語にまたがる場合や、イメージを姿・形として描きにくい単語の場合は、リズムを使って覚えるのがとても有効だ。いわゆる「語呂合わせ」はここに分類される。そのリズムはどんなものでも構わない。大事なのは、自分の中でそのリズムや音が定着することだ。語呂合わせ本に載っている文章を真似なくてはいけないということはない。「鳴くよウグイス平安京」のゴロであれば、うぐいすが京都付近で「ホーホケキョ」と鳴いている様子を想像しながら唱える。自らが監督となって、そのような「プチ映画」を大量に作り出すことが記憶のインプット段階では重要だ。
「覚える」とはどういうことか
記憶のメカニズムを専門的な観点も交えながら理解することで、効果的な記憶法の背景が見えてくる。
短期記憶と長期記憶
記憶とは、人が過去に経験したことを一定時間の経過後も保持し、必要に応じて想起・再現する精神活動のことだ。保持期間によって「短期記憶」と「長期記憶」の2種類に分けられる。短期記憶は、例えば一時的に電話番号を覚えるときなどに使う記憶で、保持期間は非常に短くせいぜい数十秒、覚えられる文字列も数字にして7個程度しかないと言われている。長期記憶は、短期記憶として消え去らなかったものが全て含まれる。著者の経験上「記憶力が良い」と言われる人は、短期記憶が得意であることが多い傾向にある。
記憶がステップアップしていくシステム
飛び込んできた情報Aに対し興味があり、記憶する必要を感じれば、まず人は短期記憶にAを収める。そして次に「果たしてAは、その後も必要であるか」の判断をする。もしそこで「必要」と判断された場合には、より長期間の記憶ができるように、Aをもう一段階深く認識しようとする。これに成功すると、Aは短期記憶から脱する。ここでは、短期から長期に移行する過程として「中期記憶」の概念を挟んで説明される。中期記憶は、数時間から1ヶ月程度は覚えているが、それ以上になると忘れてしまうというレベルの記憶だ。普段の食事や授業の内容などがこれに当てはまる。
忘却するとはどういうことか
記憶の心理学では、3つの過程を総称して記憶と呼ぶ。第1は情報を刻み込み覚え込む過程で「記銘段階」。第2は記銘した情報を失わないように貯蔵しておく過程で「保持段階」。第3は保持していた情報を必要なときに記憶貯蔵庫から取り出す過程で「想起段階」。これら一連の過程がきちんとなされ、過去の情報が再現されたとき、「記憶している」状態と言える。物事を忘れるとは、これら3つの段階のうちどこかで失敗することを意味している。
エビングハウスの忘却曲線
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、無意味な音節を記憶しその再生率を調べた。この実験により、中期記憶は記銘してから1日の間に急激な忘却が起こるが、その後の忘却は緩やかに起こるというデータが導き出されている。これを曲線状のグラフで表したものを「エビングハウスの忘却曲線」という。なんとこの実験によると、一度覚えたことでも一日経つと70%以上を忘れてしまうというデータが出ている。この忘却の仕組みをきちんと理解すれば、忘却を食い止めるための効果的なやり方が見えてくる。
メモリーサイクル法で長期記憶へ
記憶における第2の「コツ」として紹介されるのが「メモリーサイクル法」だ。これは復習のタイミングに着目した方法である。
定期的なメンテナンスで記憶を保持する
いわゆる「勉強」とは、短期記憶として獲得してから中期記憶を経て長期記憶に進化させる過程のことを指す。長期記憶に進化させるために必要なことは「忘れないこと」だが、人間は放っておくと忘れる生き物。そこで、一度頭にインプットしたものに定期的にアクセスし、忘却を食い止めるという作業が必要になってくる。反復によるメンテナンスが定着には必要なのだ。
忘れかけた頃の復習が最高の効果を発揮する
この際に一番意識すべきポイントは、忘却曲線によって導かれる人間の忘却スパンにしっかり合わせた復習スタイルを確立することだ。忘れかけているタイミングで復習を入れ、それを思い出すという作業が入ると、記憶は強固なものになる。まるで漫画の「ドラゴンボール」で、サイヤ人が瀕死の状態から回復すると戦闘力が上がるような、そんなイメージだ。忘れかけのところで復習という確認作業を入れ、また忘れかけた頃に確認作業を入れる。この方法の一番のポイントは「期間」である。
徐々に期間を広げながらの上塗り作業を
「1、3、1、3、1」——これが著者が理想的だと考える復習のサイクルだ。まず初めの1は、勉強してから1時間後の復習を指す。この1回目の復習の際に間違えた部分、忘れていた部分にきちんとチェックをつけておく。次に2回目の復習は「3」、つまり学習してから3時間後におこなう。そのあとは1日後、3日後、1週間後に再度復習を入れていく。だんだんと復習間の期間が長くなっていくことがポイントだ。「5回も復習できない!」という人は「1、1、1」、つまり1時間後、1日後、1週間後のタイミングのみの復習でも構わない。いずれにせよ、記憶の定着には繰り返しが欠かせない。せっかく一度覚えたことを無駄にしないために、初期段階では踏ん張ることが、トータルで見たとき一番効率的な方法だ。
実践練習のページ
効率の良い記憶のために最重要となる2つの「コツ」を実際に使ってみることで、その効果を体感する。
スクリーン法は意識の持ち方ひとつで練習できる
メモリーサイクル法は定期的な復習という中期から長期スパンにまたがる方法のため、計画的にやることそれ自体の難易度が少々高いが、スクリーン法に関して言えば、意識すべきは覚える瞬間、そこだけだ。慣れないうちは実践するのが一苦労かもしれないが、新しい環境に順応するにはある程度の大変さを伴うのは当然だ。まずはこれらのコツを身につけるという最初の困難を乗り越えることが大切である。
イメージと結びつける練習
「スクリーン法」「メモリーサイクル法」のやり方を頭の中にイメージする練習が提案される。ここでカタカナの字づらだけではなく、「スクリーン法」と一緒に映画館のスクリーン、「メモリーサイクル法」と一緒に忘却曲線のグラフやぐるぐる回る渦巻きをイメージできれば合格だ。ただしこれはあくまでも一例で、違う映像を思い浮かべても構わない。何か映像やイメージと結びつけて記憶するスクリーン法は、意識しておくとインプットにおいて非常に役立つはずだ。
メモリ君の活用
メモリーサイクル法を実践するための強い味方として、「メモリ君」というTESTEAオリジナルの無料ツールが紹介される。QRコードを読み取ることでアクセスでき、アラーム機能(リマインダ機能)を備えている。習うより慣れよ、まずはやってみることが大切なのだ。
語呂合わせ記憶法
語呂合わせは音やリズムに乗せた暗記法として非常に有用な方法だ。著者自身もオリジナルなゴロを作り出して活用してきた。
臆したら負け、ゴロは勢いで作れ
著者のオリジナルゴロは、はっきり言って人に紹介できるような出来のいいゴロではなかった。例えば化学の元素記号で1番の水素から縦に並ぶ1族を覚えるとき、「ヘンリー泣き虫ルビー腐ってフランケン」という全くもって意味不明なゴロを使った。しかしこれでいいのだ。語呂合わせなんてしょせん自分が記憶するのを補助するツールに過ぎないのだから、基本的にはカッコつけずに勢い任せのものを作っていい。変に小洒落たものを作ろうとして時間をかけすぎても、かえって作る作業が面倒になってしまうのがオチだ。
1対1のゴロより、固めて一気にやるものがベター
語呂合わせは、ある連続した単語群をまとめて覚える際に最も威力を発揮する。「いい国(1192)作ろう鎌倉幕府」のように1対1対応のゴロも悪くはないが、1つのゴロを覚えるのに対して得られる成果が1つという点が好ましくない。しかし一気にカタマリで覚えられるゴロ、例えば中国王朝名や古文助動詞の接続を歌に乗せて覚えるゴロは大変役に立つ。10個20個のものが一気に整理されて頭に入るこういったゴロは、どんどん活用していくべきだ。
語呂合わせでその場をしのぎ、長期記憶のきっかけに
著者が中学生時代に定期テストの一夜漬けをやっていたときは、「30分、1時間、3時間、6時間」くらいのサイクルで一晩の間に反復学習してテストに臨んでいた。その際、例えば古文単語「おぼつかなし」の4つの意味を「はうまき(はっきりしない、疑わしい、待ち遠しい、気がかりだ)」と頭文字を取って覚え、葉巻が地面をほふく前進している絵を想像した。このやり方は「頭文字法」と呼ばれるが、単に頭文字を並べるのではなくイメージを付随させることが大切だ。これで試験を凌いだとしても放っておいてはやがて忘れてしまうため、よりスパンを長くとったメモリーサイクルを作って、しっかり長期記憶にもっていくことが重要だ。
人間タウンページを目指す
電話番号などの数字の羅列を記憶するための独自の方法として、「折れ線グラフ式記憶術」が紹介される。
電話番号を簡単に覚えるための方法
テレビCMで電話番号が軽快な歌やリズムに乗って現れるのは、語呂合わせやスクリーン法によって視聴者に番号を覚えてもらおうという狙いがある。しかしそういったサポート要因のない状態で電話番号を覚えるとき、短期的な記憶で考えたなら、慣れればゴロよりも遥かに速くそして便利な方法がある。それが「折れ線グラフ式記憶術」だ。
折れ線グラフ式の仕組み
折れ線グラフ式では、まず数字の大小に注目する。最小の数字は0、最大の数字は9、そして小さい数字ほどグラフの下、大きい数字ほどグラフの上に位置づけ、それらを順番に線で結ぶ。次にこの形の特徴をスクリーン法でイメージに焼きつける。その際に言葉を補って構わない。例えば「0516-1979」なら「全体は大小交互のギザギザ型。始まりの数字は0、半分上がって(5)、1に戻る、そして平行に6、1に戻ってていてっぺん(9)へ、2段下がって(7)また戻る(9)」といった具合だ。ただしこれはイメージありきで、そのイメージを補って考える言葉に過ぎない。覚える主役はあくまで折れ線グラフである。
普段から数字の感覚を鍛える
この数の感覚は、電話番号以外でも鍛えることができる。例えば車のナンバープレートを見て、普段から折れ線グラフ式の覚え方を鍛えておくといい。2台分の車のナンバーをまとめて覚えられるようになれば、電話番号レベルはクリアだ。慣れてきたら3台、4台と車の台数を増やしてチャレンジしてみる。折れ線グラフ式、もしくはそれに付随する「大小」や「偶数奇数」の考え方を普段から意識して使用していれば、数の感覚やイメージ力はとても鍛えられる。
人の顔と名前を覚えるための方法
人の顔と名前を覚える能力は、実生活において極めて役立つ。著者はこの能力がかなり得意だが、その秘訣を分析してみると、やはり基本は2つの「コツ」にあることが分かる。
たくさんの人の顔を覚えるには
著者は塾の近くで保護者に出会ったとき、きちんと誰のお母さんなのか認識できている。また大学時代のサークルにOBとして顔を出すとき、毎年入ってくる新入生たちを覚えなくてはならないが、ほぼ完璧に覚えることができる。自分が人の名前を覚えるときにどうやっているかを分析してみると、毎日のように顔を合わせていれば覚えるのは当然だが、保護者の顔や新入生の顔はなかなか定期的な復習もできない。つまりメモリーサイクル法が通用しない状況なのだ。そのため、「記銘段階」でのスクリーン法が記憶を成り立たせている理由である。ここで強く脳にインプットすることによって、忘却曲線のカーブを緩やかにしているとも言える。
顔と漢字をひとつの映像としてインプットする「名ふだ法」
著者が人の名前を記憶するときは、その人の顔をしっかりイメージに焼きつけながら、同時に名前の漢字をその映像に重ねている。そして音をその映像に流している。例えば渡辺さんなら「私は渡辺です」と言われたときにその人の顔を見ながら渡辺という漢字を頭のスクリーンに映し、と同時に「わたなべ」という言葉(音)を頭の中にリピートする。ポイントは「漢字を頭のスクリーンに映す」この部分だ。おそらく名前を頭に浮かべた後のイメージ時間が普通の人に比べて格段に長いのだと思う。会話をしながら頭の中のスクリーンには名前が映されっぱなしになっている。これのおかげで、会話が終わるころにはすっかりその人の顔と名前の漢字が一体化してひとつの映像としてインプットされることになる。この方法を「名ふだ法」と呼ぶ。
イメージ&リピートが人名記憶においても大切
やはり繰り返しが大切だ。会っているその時間内なら何度でも復習ができる。新入生たち何人かと話しているうちに、前に話した人の名前を忘れてしまった場合は、臆さずすぐに聞きなおす。すると「忘れかけているタイミングで復習すると、記憶が強固になる」というサイヤ人の理論によって、次には忘れにくくなる。これは超短期のメモリーサイクル法を実践することで記憶を固めていると言える。やはり人名記憶においても、基本はスクリーン法とメモリーサイクル法なのだ。
まとめ
この章では、記憶の科学的メカニズムを理解した上で、誰でも実践できる具体的な記憶法が紹介された。「スクリーン法」(イメージとリズムによるインプット)と「メモリーサイクル法」(忘れかけたタイミングでの復習)という2つの核となる「コツ」を軸に、語呂合わせ、折れ線グラフ式、人名記憶法など、多様な場面で応用可能なテクニックが展開された。保護者にとって重要なのは、子どもが「覚えられない」と悩んだとき、単なる努力不足や能力の問題として片付けるのではなく、方法論の問題として捉え直すことだ。記憶はコツさえつかめば誰でも得意にできる——この確信をもって、子どもの学習をサポートしていきたい。