開成番長の記憶術 序章 開成番長の学園生活 SAPIXトップの法則

本章では、著者が開成中学とSAPIXで実践してきた記憶法の原点を紹介する。中学1年時の失敗から学んだ「インプットとメンテナンス」の重要性、そして小学生時代に体得した復習主義と記憶のコツ。成績優秀者に共通するのは、特別な才能ではなく、記憶の仕組みを理解した効率的な学習法だった。
この章の目次
初めての中間試験
成績上位者の下馬評
開成中学に入学した著者は、SAPIX時代のトップという実績から周囲の期待を集めていた。しかし入学後は運動会や遊びに夢中になり、勉強は最低限の宿題のみ。親の管理から離れた自由な環境で、学習習慣は崩れていった。
やることやらねば、結果はこうなる
中間試験1週間前になっても「やりきった」感覚を得られないまま試験を迎え、結果は50人中9位という中途半端な成績だった。期末試験ではさらに順位が下がり、小学生時代の実績からは程遠い結果となった。一方で、部活動に真面目に取り組みながら成績優秀な友人たちの存在が、著者に気づきを与えることになる。
インプットとアウトプット
成績向上のために強化したポイント
中1の学年末、成績優秀者が次々と表彰される中、自分の名前が呼ばれないことに悔しさを感じた著者は、自分に足りないものを分析し始めた。授業は「だいたい」聞いていた程度では不十分だと気づき、わからないことを残さないよう授業後の質問を徹底するようになった。
計算された一夜漬け
復習については、放課後は遊びたいという欲求を認めた上で、試験1週間前から超計画的に取り組む方法を編み出した。授業時に深く理解しておくことで、1ヶ月後の忘れ具合が「ちょうどいい」状態になる。そこから1週間前、前日と段階的に復習を重ね、最後は徹夜で仕上げる。追い込まれてから最大の集中力を発揮する自分の性格を逆手に取った戦略だった。
勉強力を支える記憶力
改善点のあぶりだし
中1終了時点で見出した改善点は2つ。授業中のインプットレベルを上げること、そして試験前の追い込みを強化することだった。放課後は遊びに時間を使いながら、この2点を徹底的に強化した結果、中2では優等賞、中3では特別優等賞を受賞できた。
重要な2つの絶対法則
勉強の基本は「知識の強いインプット」と「それをアウトプットに結びつけるためのメンテナンス」の2つに集約される。これは勉強の基本というよりも、記憶の基本と言える方法だ。記憶力は先天的な脳機能だけでなく、後天的な記憶法によって大きく向上する。開成で成績が良い生徒は、記憶法が優れていた。
SAPIXトップの法則
復習して解き込むことの重要性
著者の記憶法の原点は、SAPIX時代の徹底した復習主義にあった。SAPIXでは「予習→授業→復習」ではなく「授業→復習→復習」というスタイルを貫いていた。次の週に復習テスト、1ヶ月後に月例テスト、数ヶ月に1回範囲なしの大きなテストと、効率的に記憶を強固にする復習サイクルが組まれていた。
算数だって暗記科目にできる
算数や国語は暗記物ではないと言われるが、著者は算国も暗記物だと考えている。理社が細かい知識の暗記なら、算国は解答につながる一連の過程の暗記だ。算数が得意な人の多くは、問題のパターンを暗記するほど大量の問題を解き込んでいる。無から発想を生み出すのではなく、パターンのデータベースを構築しているのだ。
自力で吐き出せる形に保存することの意義
授業内容が頭に入っていても、試験で自力で答案に吐き出せなければ評価されない。そのために復習という作業で、記憶を脳から引っ張り出せるよう準備を整える必要がある。そして復習は、効率の良いサイクルでおこなうことが重要だ。頭から消えかけているものを呼び覚ます復習、取り出せなくなっているものを取り出せるようにする復習、この2つの意味を理解することが記憶定着の鍵となる。
リズム・連想・数字を大切に
理科の暗記の歌作り名人
SAPIX理科の奥田先生は、大量の知識を七五調の「歌」に乗せて教えてくれた。音楽的な歌ではなく、語感とリズムと抑揚だけの呪文のような歌。「セミにカメムシ、カゲ、トンボ」「囲んで先公半殺し」といったインパクトのあるフレーズが、強烈に記憶に刻み込まれた。リズムの良いフレーズは、記憶を頭の中に深く定着させる。
連想イメージを呼び起こす母の教え方
家庭での復習では、母とクイズ形式でやりとりをしていた。母は知人の出身地や有名人の名前など、具体的なイメージと結びつけて出題してくれた。当時は半分ありがた迷惑だったが、今思えばイメージすることの大切さを教えてくれていた。はっきりとしたシンボルとなるイメージが加わると、記憶が深く刻み込まれるのだ。
とあるきっかけから数字を数えるように
8歳で祖父母を亡くした著者は、死への恐怖から「4」という数字を極端に嫌うようになった。その結果、日常的に数字に注意を払う習慣がつき、脱字がほとんどなくなった。また、数字そのものに個性やイメージを感じるようになり、それが数字を扱う能力を地味だが確実に向上させた。記憶力のベースアップに貢献する、いぶし銀の効果だった。
まとめ
記憶力を高める方法は、特異な才能ではなく誰にでも実践できる。知識の強いインプットと、それをアウトプットに結びつけるメンテナンス。この二大原則を、リズム・イメージ・数字といった具体的な工夫で補強する。基本に忠実な、時に泥くさい方法こそが、確実に記憶力を向上させ、成績向上をもたらす。家庭でできることは、クイズ形式で楽しく学ぶ環境づくり、イメージと結びつける声かけ、そして復習のリズムを整えることだ。