開成番長の記憶術 第5章 記憶のトレーニング法 ~頭の回路を刺激する~

本章では、記憶力を高めるための具体的なトレーニング方法を紹介する。記憶には集中力とイメージ力が不可欠であり、この2つは相互に高め合う関係にある。時間・環境・興味・競争という4つの要素を活用した訓練法や、楽しみながら脳を活性化させるゲーム形式の練習法を通じて、子どもの記憶力と思考力を同時に鍛えることができる。
この章の目次
記憶に欠かせない集中状態を作る
イメージ力と集中力は表裏一体
記憶を定着させるには、イメージ力と集中力の両方が必要になる。スポーツ選手が試合前にイメージトレーニングを行うように、集中することでイメージが鮮明になり、逆にイメージすることで集中力が高まる。この2つの能力は切り離せない相関関係にあり、片方を鍛えればもう一方も自然に向上していく。
集中のメカニズムを理解する
「勉強しろ」と言われて机に向かうことは簡単だが、「集中しろ」と言われて集中するのは難しい。集中力は意志の力だけではコントロールできず、環境や心理状態に大きく左右される。そのため、集中しやすい条件を意図的に作り出すことが、学習効率を高める鍵となる。
小学生に学ぶ集中の4要素
興味・時間・環境・競争が集中を生む
集中力を高める要素は「興味」「時間」「環境」「競争」の4つに整理できる。小学生を指導する現場では、この4要素が揃うと自然に集中状態に入ることが観察される。興味があるゲームには没頭し、時間制限があれば一生懸命になり、決まった環境に入るとやる気モードになる。
本能に働きかける仕組み
幼い子どもでも集中できるということは、これらの要素が本能レベルで集中を促すことを意味する。ライバルがいれば負けじと頑張り、褒美があれば興味が湧く。こうした自然な動機づけをうまく活用することで、無理なく集中力を引き出せる環境を家庭でも作ることができる。
「時間」「環境」を使ったトレーニング・集中力向上法
時間短縮法で達成感を積み重ねる
同じ難易度の課題を少しずつ短時間でこなせるよう訓練する方法がある。計算ドリルや百ます計算がその代表例で、自分の成長を数値で実感できるため、達成感と集中力の両方が育つ。タイムを測ることで、子ども自身が「もっと速く」と挑戦する意欲が自然に芽生える。
区間増量法で処理能力を高める
一定時間内にこなせる量を増やしていく訓練法もある。3分間作文のように、限られた時間で最大限のアウトプットを目指すことで、集中力と同時に思考の瞬発力も鍛えられる。事前にイメージする時間を設けることで、イメージ力の強化にもつながる。
異空間法で非日常の刺激を与える
普段と異なる場所や状況で学習することで、集中力が高まることがある。非日常的な環境は印象に強く残り、記憶の定着も促進される。また、イチロー選手のルーティン行動のように、決まった動作を通じて集中モードに入る方法も効果的だ。
3分で「楽しいこと」をバーっと書き出す
イメージ・ブレインストーミング「イメブレ」
紙の中心にテーマを書き、3分間で関連する絵と文字をセットで書き出す訓練法がある。時間制限により集中力が高まり、絵と文字を同時に使うことで右脳と左脳がバランスよく活性化される。楽しみながら脳をフル回転させることができる。
形容詞から名詞へと難易度を上げる
最初は「きれい」「青い」などの形容詞をテーマにすると、名詞のイメージが浮かびやすく取り組みやすい。慣れてきたら名詞をテーマにして、そこから連想される形容詞を絵で表現する練習に進む。漠然とした概念を具体的なイメージに変換する力が養われる。
連想ゲーム「イメレン」で思考をつなげる
イメージを連想ゲーム形式でつなげていく「イメレン」も効果的だ。左上からスタートして、連想される絵と文字を右へ展開していく。ストーリー性を意識することで、記憶に残りやすい流れが自然に生まれる。書き出したものを覚える練習を加えれば、記憶力訓練としても活用できる。
おぼえてしりとりに隠された理論的裏づけ
復習を強制的に繰り返す仕組み
登場した単語をすべて覚えながら進める「おぼえてしりとり」は、記憶訓練として優れている。毎回これまでの単語を復習するため、反復学習が自動的に行われる。複数人で行えば、誰かが忘れても他の人が思い出させてくれるため、相互補完の効果も生まれる。
ストーリー化で記憶を強化
「リンゴが落ちてきてゴリラがパンチ、砕けたリンゴからラッパが出てきた」のように、単語をストーリーで結びつけると記憶に残りやすい。しりとりの頭文字のつながりと、視覚的なストーリーが組み合わさることで、驚くほど多くの単語を記憶できるようになる。
切符でやったあのゲームが!
計算ゲーム「ジャマイカ」で数的感覚を養う
5つの数字を四則演算で組み合わせて目標の数を作るゲームは、計算力と集中力を同時に鍛える。切符の4桁の数字で10を作るゲームを発展させたもので、複数の解答パターンを探すことで試行錯誤力も育つ。サイコロがなくても、ランダムな数字で同様の訓練ができる。
駅順記憶で数字と空間をリンクさせる
よく利用する路線の駅に番号を振って覚えると、駅順や駅間隔が瞬時に把握できるようになる。数字は前後関係や位置関係の把握に役立ち、日常生活の中で自然に数的感覚を養うことができる。身近な対象に数字のイメージを付加する習慣が、記憶補助の能力を高める。
無意識の行動から意識下の行動へ
記憶の本質を理解する
強く記憶されているものには共通点がある。強烈なインパクトがあったか、繰り返し人に話してきたかのいずれかだ。これらは無意識に記憶されたものだが、記憶法を知ることで、意図的に同じ状態を作り出せるようになる。無意識の現象を意識的に再現することが、記憶力向上の核心となる。
意識の変革が記憶力を変える
記憶のトレーニングは、記憶に対する意識を変革するプロセスでもある。「覚えられない」という固定観念を「覚え方を知らなかっただけ」と捉え直すことで、学習への姿勢が変わる。意識を持ち続けることで、記憶力は確実に向上させることができる。
記憶力の向上が果たす意義
人間関係を円滑にする力
ちょっとしたことを覚えていることは、相手に好印象を与える。細やかな気配りができることは信頼関係の構築につながり、記憶力の向上は人間関係を豊かにする。子どもが友人や先生との関係を深める上でも、記憶力は大切な役割を果たす。
学業成績と自己肯定感の向上
記憶力が高まれば、暗記の効率が飛躍的に向上し、学習への苦痛が減る。苦手意識を持つことなく学べるようになれば、学びそのものを楽しめるようになる。記憶法を身につけることは、子どもの自信と可能性を広げることにつながる。
まとめ
記憶力は生まれつきの才能ではなく、訓練によって確実に向上させることができる。集中力とイメージ力を高める環境を整え、ゲーム感覚で楽しみながら脳を刺激することが重要だ。時間・環境・興味・競争の4要素を意識し、子どもが夢中になれる学習環境を作ることで、記憶力だけでなく思考力や発想力も同時に育てることができる。記憶法を実践し、意識を変えることが、実りある学びへの第一歩となる。