開成番長の記憶術 第3章 インプットノウハウその2 関連づけ〜知っていることにつなげる〜

本章では、既知の知識を活用して新しい情報を記憶する「記憶のリサイクル」を解説する。ゴロ合わせによる頭文字法、無味乾燥な定義へのイメージ付加、連想ゲームによるストーリー記憶。すでに持っている資源と関連づけることで、無から覚えるよりも圧倒的に効率よく、確実に記憶することができる。
この章の目次
記憶のリサイクル
無限大の貯蔵庫から資源を拾い上げる
リサイクルとは、すでにある資源を有効利用することだ。新しく作るよりも、すでにあるものを利用したほうが、安上がりで効率が良い。この考え方は記憶にも流用できる。人は今までの人生で培った経験により、膨大に記憶している。頭の中にはたくさんの記憶=資源が眠っているのだ。
既知のものにくっつける
何か新しいことを学んだとき、そのとらえ方の巧拙が記憶力には大きく影響している。自分が持っている資源と関連づけること、それもなるべくわかりやすい形に関連づけることが、安上がり(=カンタン)で効率の良い記憶には絶対に不可欠だ。第1章で登場した「ブスタニ」がその例だ。スワヒリ語の「ブスタニ(広場)」を、すでに知っている「ブス」と「タニ」という言葉に分解し、「ブスな谷さんが広場ではしゃいでいる姿」というイメージに変換した。
記憶のリサイクルが効率を生む
記憶に大切な関連づけとは、過去の記憶を有効利用する記憶のリサイクルなのだ。未知なるものを未知ではないものとしてとらえる。これが記憶の初期段階をスムーズにするためには大切だ。家庭では、子どもが新しい単語や概念を学ぶとき、「これって何かに似てない?」と問いかけ、既知の知識と結びつける習慣を育てることが効果的だ。
ゴロを馬鹿にするなかれ
頭文字法を最大活用する
すでに知っているものと関連づけて考える典型的な記憶法が、実は「ゴロ合わせ」だ。しばしば無味乾燥な文字の羅列にさえ意味を生じさせてくれるゴロ合わせは、記憶法として大変優れている。例えば古文単語「べし」の意味は6種類ある。推量、意思、可能、当然、命令、適当。頭の一文字を取って並べると「すいかとめて」。スイカ止めて。ゴロゴロと転がり落ちるスイカと、頭を抱えるおじいさんの映像が浮かぶ。もう忘れない。これがゴロ合わせの破壊力だ。
ゴロにも必ずイメージを伴わせる!
ゴロを覚えるときには、必ずそのゴロであらわされている様子をイメージとして思い描くことも大切だ。もともと状況をイメージしやすいゴロであればなお貴重だ。例えば「橋をアヘンが埋め尽くし、橋にかけたよ南京錠」(1840年アヘン戦争、1842年南京条約)は、イメージしやすく、リズムが七五調になっているのも優れているポイントだ。バラバラである複数のものを、自分の中にある全く別のものと関連づけて一気に覚えてしまう。大量のモノを自分の知っている別のものに変換して覚えてしまうゴロの破壊力を再確認してほしい。
ゴロ合わせの意義
ゴロで身につけるのは糸口・入口
ゴロばかり頼っていると物事の本質をつかめなくなるのでは、という不安がつきまとう。しかしゴロ合わせは、あくまでも入口、つまりインプットの際の補助としての役割だ。ゴロにして意味を持たせることで記憶の最初の記銘を明確にし、繰り返しやすいフレーズで保持しやすく、さらに想起するときの糸口まで作っておく。ゴロだけですべてを覚えられるとは錯覚しないでほしい。きちんと別に、その用法で使われている文章を読んで自分なりの理解をしておくことが大切になる。
ゴロをバンバン作ってしまおう! ゴロの作り方
即席ゴロは強力な武器になる。ある生徒が日本の輸入相手国の順位を覚えられず困っていた。アメリカが1位のものは、大豆、綿花、小麦、果実。頭文字をつなげると「ダ・メ・コ」。ダメ子だ!
すごくダメーな感じのダラーっとした女の子を想像して、その女の子が果物を持ってはしゃいている様子を想像する。生徒の表情は霧が晴れたように明るくなり、「コツ」を体感できたようだ。
メモリーサイクル法で有意義な記憶に昇華させる
その後、会うたびに「アメリカが1位なのは何?」と抜き打ち質問を浴びせかけた。メモリーサイクル法をこちらからの働きかけで実践しているのだ。最初は思い出せそうで思い出せない状態になることも多かったが、「ほら、ダ・メ……」とヒントを言うと「あー、そうだ!
大豆綿花小麦、あとは……果物!」となる。この瞬間、サイヤ人理論により記憶が強固になっている。ゴロの目的はあくまでも自分が覚えるための糸口・入口を作ることだ。記憶対象とは何の関連性もないナンセンスなゴロでも、それを糸口として何度も思い出しているうちにやがて自分の中で固まり、ゴロに頼らずとも思い出せるような状態に昇華する。
自分なりのイメージを伴わせる例
全然面白くない定義を覚えなくてはいけない
会計士受験生の友人から相談を受けた。「企業会計原則」の定義は長く、無機的で全く面白くない。確かに覚えづらいだろう。世の中にはもともと覚えやすい性質のものと覚えにくい性質のものがあり、これは明らかに後者に入る。その上で、少しでも覚えやすくするための方法を紹介しよう。
自分があたかもその場にいて、それを見ているようなイメージで!
せめて有機的に(意味を持って)文章が頭に入るように、自分なりのイメージを起こそう。オリジナル映画を作ってしまうのだ。それは、定義で言わんとする正しい意味とは違った意味になっても構わない。「慣習として発達した」なら、デスクに向かい一生懸命実務をやっている絵を想像し、そこに突然モコモコっと慣習が発達してくる。「公正妥当と認められたところを要約」なら、いいモコモコを手でまとめるような絵を想像する。単調になりがちな定義にイメージをつけたことにより、ぐっと親しみやすいものになる。このイメージありきで、あとは繰り返して読むのだ。こういったイメージはリアリティを感じながら思い浮かべることが大切だ。自分がその場にいて主人公としてふるまっていればベストだ。
連想ゲームの達人たれ
関連性のあるものを連ねていく
沖縄、リゾート、ゴルフ、ドライバー、ネジ、うずまき、なると……。隣同士には関連性がある。次から次へと物事を連想していく連想ゲーム。実はこのゲーム、重要な記憶のヒントが隠されている。人間は何かを思い出すときに、そのヒントとなる糸口が見えるとそこからパーンと記憶がよみがえるという性質を持っている。覚える段階で、あとあと思い出せなくならないようにヒントの糸をたくさん垂らしておく必要がある。
強烈インパクトのオリジナルムービーを!
では、豚、ミシン、皆既日食、平泳ぎ、ラーメン、フランス、りんご。これが連想ゲームの結果だと言ったらどう思うだろうか。思いつくままに単語を並べただけに見える。でもこれを連想ゲームにしてしまうところに、記憶の極意がある。スクリーン法により、この7つの単語で超インパクトのある映画を作ってしまうのだ。「とあるところに豚がいた。ああっ!
なんと突然豚がミシンにかけられている! (すると突然あたりがまっ暗に)皆既日食です。な、なに! 北島康介が猛烈な勢いで平泳ぎをしながらこっちに向かってくる! なんと手にはラーメンが! (ラーメンが目の前に到着)ぬおっ!
ラーメンがトリコロールカラーになっている! (頭の中のイメージはフランスのエッフェル塔にシフト)ええっ! エッフェル塔に、なんと巨大なリンゴが刺さっている!」
全体として一つの映画にまとめる
これを頭の中で映像化してショートストーリーにしてしまってほしい。7つの単語をそのまま単純に覚えようとするよりも、よっぽどわかりやすい糸口が満載だ。超強烈なストーリーを作り、それに基づいて覚えていくと頭の中に強烈に刻み込まれる。また思い出すときに、本来は全然つながりなさそうに見えた事柄が「連想」しやすくなる。自分がその場にいると想定して感情移入することは、コツの一つだ。あたかも自分の目の前で展開されている出来事であるかのように、自分がストーリーを目の当たりにしている主人公となり、衝撃映像を展開させていくのがポイントだ。家庭では、買い物リストや覚えるべき項目を、子どもと一緒に面白いストーリーにする遊びが記憶力向上につながる。
まとめ
記憶のリサイクルとは、既知の知識を活用して新しい情報を覚える技術だ。ゴロ合わせで頭文字法を活用し、無味乾燥な定義にもイメージを付加する。連想ゲームで強烈なストーリーを作り、複数の項目を一度に記憶する。大切なのは、未知なるものを未知ではないものとしてとらえること、そしてイメージを伴わせることだ。家庭では、「これって何かに似てない?」と問いかけて既知の知識と結びつける習慣、即席ゴロを一緒に作る遊び、覚えるべき項目を面白いストーリーにする活動が効果的だ。ゴロはあくまでサポートツールだが、メモリーサイクル法と組み合わせることで、やがてゴロに頼らずとも思い出せる状態に昇華する。記憶の名人は、この関連づけが非常にうまいのだ。