開成番長の記憶術 第1章 記憶のコツ 〜日常生活からヒントを探る〜

本章では、誰にでも実践できる記憶の基本原則を紹介する。スクリーン法による鮮烈なインプット、サイヤ人理論による効率的な復習、そしてメモリーサイクル法による計画的なメンテナンス。特殊な才能は不要で、記憶の仕組みを理解し基本に忠実に実践することが、子どもの記憶力向上への確実な道となる。
この章の目次
インプットのカギ、スクリーン法
人間が持つ、広大な脳のスクリーン
何かを思い出そうとするとき、人は上を見る。それは脳内のスクリーンに映像を映し出そうとしているからだ。昨日の夕食を思い出すとき、その光景が頭に浮かぶ。思い出すとは「具体的なイメージを脳のスクリーンに映し出す」ことと同義なのだ。
スワヒリ語「ブスタニ」をイメージ変換
人間の脳内スクリーンは、初めて聞く言葉すらイメージとして映し出せる。例えばスワヒリ語の「ブスタニ(広場)」を、「ブスな谷さんが広場ではしゃぐ姿」というショートストーリーに変換する。どんな言葉も、自分の知っている知識と結びつけて具体的なイメージに落とし込むことができる。
スクリーン法で鮮烈インプット!
記憶力の良い人は必ず「イメージ」の力を大切にしている。抽象的なものを具体化し、関連性のないものを物語として作り上げることで、強く印象として残る。インプット段階から具体的なイメージとして記憶することは、非常に理にかなった方法だ。家庭では、暗記事項を子どもと一緒に面白いイメージに変換する遊びが効果的だろう。
ファーストキスは覚えているもの
非日常の記憶は強く印象に残る
10年以上前の出来事で今も覚えていることは、特殊な、普段あまりなかったような体験が多い。人間の脳には、非日常的な体験ほど強く記憶に残るという性質がある。ファーストキスが鮮明に残るのは、その非日常性ゆえだ。
ヤバすぎるシチュエーション
記憶のためのイメージは、なるべくヘンテコリンで非日常的な状態を考えたほうが、強烈なインパクトが残る。自分の脳内で作る「映画」は、自分だけにウケればいい。人に言えないようなマニアックな発想でも構わない。それでこそ強い印象に残るのだから。場所や動作を変えるのも、非日常性を作り出す方法のひとつだ。
「覚える」とはどういうことか
感覚記憶と短期記憶と長期記憶
記憶は保持期間により「感覚記憶(最大1〜2秒)」「短期記憶(数十秒)」「長期記憶」に分類される。勉強など物事を学習するには、基本的に長期記憶まで育て上げる必要がある。スクリーン法は、短期記憶を鮮烈にするためのテクニックと言える。
長期記憶にするにはメンテナンスが必要
短期記憶から長期記憶への移行には「中期記憶(数時間〜1ヶ月程度)」という段階がある。普段の食事や授業内容は中期記憶に入るが、そのままでは消滅する。長期記憶に育てるには、忘れないうちに何度も繰り返しアクセスする「情報のメンテナンス」が必要だ。
「記憶している」と「忘れる」とは
記憶の心理学では、「記銘段階(情報を刻み込む)」「保持段階(貯蔵する)」「想起段階(取り出す)」の3つの過程を総称して記憶と呼ぶ。忘れるとは、この3段階のいずれかで失敗することを意味する。記憶力は、この3つを上手におこなう方法を身につければ向上する。家庭では、子どもがどの段階でつまずいているかを見極めることが大切だ。
ポケモンゲットも成績ゲットも同じ
あの少年がポケモンマスターなわけ
ポケモンに登場するキャラクターは約500種類、東大受験の古文単語の倍だ。しかし学校の成績がビリの子どもでも、ポケモンなら大人が舌を巻くような知識を発揮する。この子は決して頭が悪いわけでも記憶力が悪いわけでもない。記憶の仕組みを無意識に活用しているのだ。
興味あることは知らず知らず復習している
好きこそものの上手なれ。最大の理由は「復習」が苦にならないからだ。ポケモン少年は毎日ゲームに取り組み、膨大な復習量をこなしている。いかに強烈なインプットをしても、復習を怠っては記憶の維持は不可能だ。定期的に脳内の記憶にアクセスしてメンテナンス作業をおこなうことが、記憶保持の鍵となる。
人間は1日で70%も忘れてしまう
エビングハウスの忘却曲線によれば、人間は一度覚えたことでも放っておくと1日で70%も忘れてしまう。コンピュータと違い、人間の記憶は脳が正常でも放置すると消滅する。だからこそ復習が必要だ。ただし毎日復習すればいいわけではなく、効率を考えた戦略的な復習が求められる。
25年前の恐怖体験
ママが見当たらない!
著者が幼稚園年少のとき、おゆうぎ大会で母を見失った出来事。25年前の幼少期の記憶なのに、廊下を探し回るときに流れていた音楽、母を見つけたときの笑顔、手に持っていたエリマキトカゲまで鮮明に覚えている。強烈な恐怖の感情を伴っていたことがポイントだ。
非日常的体験に伴う強い感情
人間は非日常的体験で、たいてい強い感情を同時に抱く。ファーストキスが印象的なのは、非日常的シチュエーションだけでなく、「幸福」「感動」「恐怖」といった感情を抱いているからだ。感情と記憶は関係しているので、うまく感情を記憶にからめることが有効な手助けになる。
「ああ! そうだった!」は強烈な感動の感情
一番有効な感情は「感動」だ。「目からウロコ」的な発見があったとき、人間の脳には強く物事が印象づけられる。そして「思い出せそうで思い出せない」状態でウンウン悩んだ後に答えを聞いて「ああ!
そうだった!」となったとき、長いこと忘れなくなる。インプット時だけでなく、メンテナンス時の「感動」でも記憶は強く残る。
瀕死状態の記憶を呼び覚ますサイヤ人理論
薄れかけているけれどなくなってはいない状態で記憶を呼び覚ますと、その記憶を強固な形で定着させることができる。これを「サイヤ人理論」と呼ぶ。ドラゴンボールのサイヤ人が瀕死から復活するとひと回り強くなるように、忘れかけで「瀕死」の記憶を呼び覚ますと、より強い記憶となって残る。家庭では、子どもが完全に忘れる前、思い出せそうで思い出せないタイミングで声をかけることが効果的だ。
記憶に反復は欠かせない
つめすぎもあきすぎも良くない
水をやらなければ木は枯れる。人間の記憶も定期的なメンテナンスが不可欠だ。ポケモン少年とサイヤ人理論から導き出される教訓は2つ。人間は復習しないと忘れる生き物であること、忘れたころに思い出すと記憶は強固になること。間隔ツメツメで復習するのは無駄が多く、逆に間隔が広がりすぎると初習と変わらぬ状態に戻ってしまう。
復習間隔を徐々に広げながら記憶をメンテナンス
忘れかけの状態での復習が、もっとも効率の良い復習ポイントになる。忘れかけの状態で復習すると、サイヤ人のように強力になって記憶は復活する。強力になった記憶は前よりも忘れにくく、忘れかけの状態になるまでの期間が長くなる。復習を重ねるごとに記憶の減少カーブは緩やかになり、復習ポイントの間隔もどんどん開いていく。
メモリーサイクル法の仕組み
人間の忘却スパンにしっかり合わせた復習方法を「メモリーサイクル法」と呼ぶ。一番標準的な型は「1、3、1、3、1」だ。習ったときから1時間後、3時間後、1日後、3日後、1週間後に復習する。この間隔の感覚が自然な形で身につくと、意識せずにメモリーサイクル法を使えるようになり、記憶力がだんだん良くなってくる。家庭では、子どもの学習計画にこのサイクルを組み込むことで、効率的な復習習慣を育てることができる。
基本的な方法の積み重ねを!
記憶力が良い人たちは皆、実践している
記憶において大切なのは、原則をきちんと理解し忠実に実践することだ。スクリーン法を使った「インプット」、メモリーサイクル法による「メンテナンス」、そしてインプットした情報を「アウトプット」できる形として保存すること。この二枚看板は記憶力向上に欠かせない車の両輪だ。
特殊能力は一切不要
記憶力の良い人というと特別な能力を持っていると思われがちだが、実際は驚くほど単純で基本的な方法の積み重ねによるものだ。効果的なインプットで脳に焼きつけた記憶を、効率的なメンテナンスでアウトプットできるよう保持する。この一連の行為を忠実におこなうことが記憶の最大のコツなのだ。
絶対的なインプット三原則
スクリーン法によるイメージ記憶のためのコツは、大きく3つに分けられる。「特徴をとらえる」「関連づける」「数字で考える」。この3点を意識するだけで、驚くほど効果的なインプットが可能になる。特殊な才能は不要で、誰にでもできる方法を忠実におこなうことが近道だ。
まとめ
記憶力向上に特殊能力は不要だ。スクリーン法で具体的なイメージに変換し、非日常的で感情を伴う形でインプットする。そして忘れかけのタイミングで復習するサイヤ人理論、メモリーサイクル法による計画的な復習。これらは誰にでも実践できる基本原則だ。家庭では、暗記事項を面白いイメージに変換する遊び、思い出せそうで思い出せないタイミングでの声かけ、1・3・1・3・1のサイクルを意識した学習計画が効果的だ。子どもの「好き」を活用し、復習を苦痛ではなく楽しみに変えることが、記憶力という一生の財産を育てる。