中学受験を9割成功に導く「母親力」 第2章 子どもの受験を成功させる「母親力」とは何か

テスティーの講師たちが語る、実際の親子関係から見えてくる「母親力」の本質。5人の講師の体験談を通じて、成功例と失敗例の違いが浮き彫りになる。押しつけや過干渉ではなく、適切な距離感で子どもの自主性を尊重し、いざというときに全力でサポートする姿勢が、受験成功の鍵となることが示されている。
この章の目次
講師Aさん:合格はいざというときのサポートのおかげ
講師Aさん(女性、25歳、慶應義塾大学商学部卒)の両親は、勉強面では干渉せず、励ましやアドバイスに徹していた。本人の意思を尊重し、ストレスフリーの環境で勉強できるよう配慮していたという。
適切な距離感で伴走者として関わる
高校受験前、毎日遅くまで塾に残っていたAさんを、両親は毎日迎えに来てくれた。勉強時間以外の部分では手厚くサポートし、特に父親は表立って勉強に関わらなかったものの、シンプルなアドバイスや座右の銘を紙に書いて渡すなど、ポイントポイントで関心を示していた。勉強に集中できるよう本人だけ部屋を分けていたが、父はたまに様子を見に来て、肩を叩いたり頭をなでたりしてくれた。特に言葉はなかったが、受験勉強は孤独なもの。こうしてぬくもりを与えてくれることが、すごくうれしかったという。
大事な場面での全力サポート
慶應女子の自己PR表は、内申書の点数にプラスされる重要な書類だった。Aさんの両親は保護者記入欄を熱心に埋め、完成度の高いものを作り上げた。本人の成績はそれほどでもなかったが、親のサポートが合否を左右する重要な要素となった。また、中3の大事な時期、都立高向けの進学塾から「慶應レベルは面倒見きれない」と突き放されたとき、憤慨した両親は塾を見切り、新しい塾を探してくれたのは母親だった。妹にも同様のトラブルがあったが、両親が前面に立って抗議し、子どものために行動した。
努力を認めず、子どもが勉強を拒否するように
両親の学歴が高い家庭ほど、子どもに求めすぎる傾向がある。ある中1の女の子は、10点台から40点台まで成績を上げたにもかかわらず、母親から「こんな点数じゃダメでしょ」と叱責された。
ほめられなかったことの影響
本人は相当頑張ったにもかかわらず、最もほめてほしい母親に冷淡な態度を取られたことで、意欲が萎えてしまった。元々勉強に対して拒否感の強かった子に、母親の存在がさらに拒否反応を加速させた。残念なことに、父親もまた、ほめてくれなかったそうだ。その後、彼女の成績は上がらなくなり、塾もやめてしまった。
適切でないレベルの教材を強制
塾で使用していたテキストは志望校のレベルに合わせたものだったが、母親は難しすぎるテキストを勝手に注文してやらせてしまった。難しい問題をやればよいというものではなく、適切なレベルを把握することが、無駄のない学習とモチベーション維持のために大切だ。
外的要因への責任転嫁
その子は塾を転々と渡り歩いていたが、環境が変わればどうにかなるというのは間違いで、本人が変わらなければ、ひいては親が変わらなければ意味がない。塾を変えたり、教材を変えたりすることを繰り返すのは、外的な要因に責任転嫁する姿勢の表れだ。
講師Bさん:英語力を認め、自信をつけてくれた母
講師Bさん(女性、20歳、慶應義塾大学法学部)は、私立小学校で算数ができずに呼び出されるほど落ちこぼれだった。しかし、テスティーで基礎を固めることから徹底され、高校ではクラスで10番以内に入るほど実力がアップした。
基礎固めからやり直せる環境
それまでの塾では自分のレベルに合っていないと分かっていながらイヤイヤやっていたが、テスティーでは基礎を固めることから徹底された。一冊を完璧にすることが、苦手を克服し、自信をつけるために大切だということを学んだ。あれこれ浮気をせずに一冊を完璧にすることが、苦手を克服し、自信をつけるためには大切である。
得意教科を軸にした学習
Bさんは英語が大好きだった。父の単身赴任に伴い、小学4年生のときにサマーキャンプに参加し、英語オンリーの生活を体験した。その後も英語の勉強を続け、得意科目となった。やはり親の導きは大切だとふり返って思う。
得意を活かしながら苦手を克服
中学校時代、周囲から「英語をやっている場合じゃない」と言われたが、母親は「小学生のときから続けてきた得意の英語は、あなたにとって誰にも負けないアドバンテージだから」とアドバイスした。英語という軸があって、はじめて数学も伸びるという考えを貫いてくれた母に感謝しているという。苦手克服は総合力アップのために欠かせないが、苦手を克服できるという自信の根拠は、得意教科の成功体験だったりするものだ。
父の適切な関わり方
父は理数系が得意で、Bさんのできなさを理解してくれないようだったが、大学受験前には毎朝センター試験の過去問を同時に解いて勝負した。最後に勝ったとき、「よく頑張ったな」とほめられたことがうれしかった。センター試験1日目に失敗して泣きながら帰宅したときも、「こんなに頑張ってできなかったのだから、みんなもできなかったはずだ。気持ちを切り替えて、明日で勝負しろ」という言葉に救われた。たまにかける重みのあるほめ言葉や、弱った心にグッと刺さる励ましの言葉が、理想的な父親の関わり方だ。
講師Cさん:「わがまま受験」を許してくれた両親に感謝
講師Cさん(女性、20歳、東京大学文科一類)は、父の仕事の関係で5歳から10歳までアメリカで過ごした。帰国後、附属中学に進学するか、英語に特化した中高一貫校に進学するかで、両親は後者を希望したが、Cさんは小学校からの友達が多いからという理由で附属中学を選んだ。
本人の希望を尊重した学校選び
結果的に塾の費用は無駄になったが、両親は本人の希望を尊重した。中学生のときも、わがままを言って都立高校を受験し、進学した。母は「何故わざわざ大変な道を選ぶのか」と思いつつも、最終的には結果を出せる子だと信じて反対しなかった。本人を信頼して見守る雰囲気が、この家庭の特徴だ。
環境を整える親の役割
アメリカ時代、平日は現地校へ通い、土曜日は日本語補習校にも行っていた。両親は日本から教材を取り寄せ、公文式までやらせた。環境を整えるという親の重要な役割が、帰国後の受験勉強の順調さにつながった。特に情報が不足しがちな海外では、こうしたサポートが欠かせない。
性格の違いに合わせた効果的な声かけ
高校時代、部活と文化祭実行委員で勉強時間が減ったとき、母は「都立でちょっとくらい成績がよくても、大学受験で戦うのは中高一貫校でバリバリ勉強している人たちなのだから、油断しちゃだめ」と厳しく言った。Cさんは気が強くプライドが高いタイプなので、きつく言ったほうが伸びると判断していたのだろう。一方、おとなしい性格の妹には、叱らずにほめて伸ばそうとしていた。兄弟姉妹の性格の違いを把握し、対応を変えることが大切だ。上の子に通用した方法が下の子に通用するとは限らないので、それぞれの性格をよく観察したうえで対応を変えることが有効だ。
講師Dさん:受験勉強の原点は母の手作りノート
講師Dさん(男性、20歳、東京大学理科一類)は、熊本出身で中学受験はしていない。塾へ行き始めたのも高2の途中からだった。母から勉強しろとうるさく言われた記憶はないが、無関心だったわけでもなく、しっかり子どもの生活を見てくれていた。
学習ノートで習慣化された勉強
母が作ってくれた「学習ノート」は、1日1〜2時間でやれる分量で、2週間先くらいまでの学習計画や毎日の課題、さらには交換日記などが書き込んであるものだった。小1から始め、帰宅後はほとんど毎日欠かさずやっていた。スケジュールを組み立て、毎日その日にやるべきことを意識するのは、メリハリのある効果的な学習をするうえで非常に重要だ。
自発的な学習意欲の芽生え
だんだん量が増え、小5からは一人で通信教育をやれるようになった。もっと難しい問題をやりたいと思うようにもなり、勉強の習慣が刷り込まれた。自発的な学習意欲も、学習計画を立てることが習慣化されたからこそと言える。なかなか小学生には難しいことだが、小1からの積み重ねの賜物だ。継続は力なりである。
見ててもらえている、頑張りが認められている
交換日記のようなやり取りをするなかで、きっと母親は常にDさんのやる気を引き出すようなコメントを書いていたと思われる。「見ててもらえている」「頑張りが認められている」というこの感覚は、幼い小学生が何かを継続するうえでの大きなモチベーションになる。
栄養面でのサポート
受験前は塾の自習室にこもる生活だったが、食事がコンビニ弁当ばかりになってはからだによくないと、母は手作りのお弁当を車で届けてくれた。ふだんあまり家にいなかった父も、時間があるときはバイクで届けてくれた。そのときは、両親にすごく支えてもらっているなと感激した。
父の進路アドバイス
父は勉強については口出しをしない人だったが、たまに気持ちのスイッチが入るときがあり、絶妙なタイミングで声をかけてくれた。進路に関するアドバイスで心に残っているのは、「大学は将来に関わるのでしっかり選んでほしいが、中学と高校はどこへ行ってもOK。ただし、違うのは『授業の質』と『周囲の人間の質』だ」という言葉だった。
メンタル面での支え
前期に落ち、後期で受かったDさんを、メンタル面で支えてくれたのも父だった。普通に考えたら前期で落ちた時点で現役合格の確率は格段に下がるが、父だけは絶対に合格を信じてくれていた。「厳しいのは分かっているけど、目の前にまだチャンスがある。まだチャンスがあるんだから全力を尽くしなさい」という言葉に励まされた。親が落ち込んでは子どもに悪影響しかない。努めてポジティブにふるまっていたのではないだろうか。
講師Eさん:何でも好きにやらせてくれた両親
講師Eさん(男性、23歳、立教大学理学部)は3人兄弟の長男で、両親は好きなものは何でもやらせるという考えだった。小2から始めて今も続けている野球とサッカーの他、水泳、空手、体操、バイオリンなど、やりたいものは何でもやらせてくれた。
「なぜ」を考える習慣
算数の文章題では、母の「どうしてそうなるのか、ちゃんと考えてごらん」という一言に助けられた。それまで直感で式を出していたが、その瞬間、霧が晴れたようにモヤモヤが消えた。それ以降は「なぜ」の部分を考えるようになり、算数の文章題はますます成績が上がった。これは理解の本質をクリアする意識が芽生えた瞬間に他ならない。
ポテンシャルと勉強量のバランス
ポテンシャルは高かったが、勉強はあまりしなかった。勉強よりも野球とサッカーに夢中で、テストさえよければよいという不真面目な考え方だった。中学受験本番ではうまくいかず、第四志望の学校に受かったが、気乗りしなかったので高校受験でリベンジしたいという思いで地元の公立中に進んだ。ポテンシャルが高くても、勉強量が絶対的に不足しているとうまくいかないものだ。
直前の追い込みと結果
中学受験になかった英語は苦労し、受験半年前にやっと気づいて英語のみに打ち込んだ。しかし結果は早慶全滅で、立教の系列校に進学した。直前でしかやらない性格なので、エンジンがかかるのが遅かったと痛感した。直前期に英語に打ち込みすぎた結果、他教科が下がってしまった可能性もある。バランスのよい勉強計画を立てることが肝要だ。
励ましと栄養管理
高校では、おじの影響で工学部を目指していたが、立教大学には工学部がなかった。塾で化学担当の先生の授業を受けて「おもしろい」と感銘を受け、理学部化学科に方向転換した。母はポジティブな性格で、いつも「なんとかなるよ」と励ましてくれた。また、受験勉強で遅くに塾から帰宅したEさんの栄養を気遣い、その日に何を食べたのかをチェックし、おかずをつけ足してくれた。ポジティブな言葉かけに栄養管理。こころとからだのケアを、母親はさりげなくしてくれていたのだ。
決め手は高い「母親力」と家族のコミュニケーション
5人の講師の体験談から見えてくるのは、彼らの母親に共通する「母親力」の高さだ。押しつけや過干渉がなく、子どもの実力以上の無理な要求もしていない。各家庭で方法は違っていても、子どもの勉強には深く関わっている。
適切な距離感での関わり
子どもを信頼し、自主性や考えを尊重している点も「母親力」の高さを感じる。エスカレーター式に進学できるにもかかわらず、経済的な負担をいとわず他校を受験させてあげたり、やりたいという習い事をすべてかなえてあげたりしている。もちろん、ただ子どものいいなりになるのではなく、叱るべきところでは叱り、軌道から外れないよう、ちゃんとコントロールもできている。
明確なビジョンと環境把握
周囲からの情報に踊らされることなく、明確なビジョンも持たれている。アメリカへ赴任された父親の話が2人から出てきたが、一緒に渡航するのも、子どもを日本に残すのも、その判断は、子どもの置かれた環境をしっかり把握できているからこそできるものだ。
比較をしない姿勢
自慢話や過去の自分との比較は一切出てこない。性格が違う姉と妹の接し方を区別しているケースもあった。余計なプレッシャーを与えず、他者との比較もしなかったことで、彼らはのびのびと楽しみながら受験に挑み、かつ結果を残すことができた。
トータルなサポート
受験においては、勉強面のみならず、生活全般を含めたトータルなサポートが求められる「母親力」。不誠実な塾の対応に抗議したり、お弁当を塾まで届けたりと、しっかり目配りされていた。これだけしてもらえば、「母親は自分の伴走者だ」と意気に感じ、頑張らないわけにはいかない。
理想的な「父親力」の発揮
母親と比べて接する時間は短いものの、ここぞというタイミングで、父親ならではの素晴らしいサポートをしている。朝の忙しい時間にセンター試験の勝負に付き合ったり、試験に失敗して泣きながら帰ってきた娘の背中を押してあげたり、孤独な受験勉強を続ける娘の部屋を訪ねて励ましたりしている。
チェックノートの重要性
テスティーで使っている「チェックノート」の話題も2人が取り上げていたが、子どもに対する母親の関心が薄ければ、子どもの成績が伸びないばかりか、人間としての成長にも悪影響を及ぼしかねない。無関心はダメ、過干渉もダメ。適切な距離感で子どもと関わっていくことがいかに大切か、そのことを講師たちのエピソードは教えてくれている。
まとめ
テスティーの講師たちが語る体験談から浮かび上がるのは、高い「母親力」を持つ母親たちの共通点だ。押しつけや過干渉ではなく、適切な距離感で子どもの自主性を尊重し、いざというときに全力でサポートする姿勢が、受験成功の鍵となる。得意教科を軸にした学習、性格に合わせた声かけ、環境を整える努力、そして家族のコミュニケーション。これらすべてが、子どもの成長と受験成功を支える「母親力」の本質だと言える。保護者にとって、この章の学びは、子どもの成長を支える具体的な行動指針となるだろう。